通っていた店で修行する日々

麺が大好きだっった。ラーメンでもそばでもうどんでも、パスタもだ。食べ歩きが趣味というわけではなかったが、まあまあ麺関係の店に関しては詳しかったと思う。食べることが好きだったから休日はよく出かけたものだった。自宅で料理を作る時間があるのなら、外で食べた方が早いと考える性格も少なからず影響があったと思う。だから、自分が通っていた店で修行を積んで自分の店を持つようになる事など想像もしたことがなかった。

 

勤めていた会社の業績が悪化しはじめたのは5年前のことだ。時代の流れに逆行する形で、バブル期はさほど売り上げはなかったのだけど、バブルが弾けてまわりがあたふたをしてる頃には、通常利益よりも少しばかり上回ることがあり、だからニュースなどでしきりに報道されていたリストラなんてまったく他人事の話だった。

 

どんな時でも良い時もあれば悪い時も起こるものだ。同僚が一気にリストラに遭い、自分もいつ首を切られるのかを考えると仕事に集中できなくなってしまった。妻にも「最近様子がおかしいけど大丈夫?」と度々尋ねられたがあやふやに返事をしていた。

 

ちょうどその頃だった。学生時代からずっと通っていたラーメン屋が閉店するとの話を耳にして久方ぶりに行ってみたのだ。聞けば跡取りがいないという。店主とその奥さんはふたりとも70代で、いい加減疲れてしまったからもう辞めるというのだ。「仮にだけど、もしやる気があるなら譲ってもいいよ」と云われ、はじめは笑っていたのだけど、自分でやれるのならやってみたいという気持ちがむくむくと湧きあがったのだ。

 

それから1年経つ。なんとか店は順調で、今ではアルバイトを数人雇い、身体に無理がない程度に働けるようになった。成るように為る、とは自分のことのようだけど、今はサラリーマン時代よりも充実した毎日を送っているのだ。


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